難治性腹水治療の現状
難治性腹水治療の現状
癌性腹膜炎に伴う難治性腹水は、強い腹部膨満感や呼吸苦、食欲不振などを生じて患者のADLを著しく低下させますが、オピオイドなどの薬物療法では症状緩和が極めて困難です。
腹水ドレナージはこれら腹腔内圧上昇に伴う諸症状を短時間で改善することができ、1980年代以降、大量腹水の治療法としてその有用性が確立されました。しかしながら反復する腹水ドレナージは、患者の血中アルブミン濃度の低下を招いてさらに短期間で腹水の再貯留を来たし、ドレナージのたびに患者は急速に全身状態の悪化をきたします。医療者も含めて一般に"腹水は抜くと弱る"と考えられている所以です。そのためにに"弱りたくない!"の一心で我慢に我慢を重ねて苦しんでいる患者さんが日本だけでなく世界中に多数存在するのが現状です。
腹水濾過濃縮再静注法とは
腹水濾過濃縮再静注法(Cell-free and concentrated Ascites Reinfusion Therapy : CART)は、局所麻酔下に細いカテ-テルを穿刺挿入するのみで侵襲は極めて小さく、腹水中の癌細胞はもちろんのこと血球、細菌など細胞成分と余分な水分を除去して静脈内に返すために全身状態の不良な患者においても安全に施行可能であり、腹腔・静脈シャント術のようにDICや癌細胞散布の危険性もありません。また多量の腹水を積極的にドレナージして体に必要な蛋白成分を回収のうえ静注することで、症状緩和のみでなく、全身ならびに腹腔内臓器の循環動態を改善して利尿剤の効果増強、食欲の改善、血中アルブミン、グロブリン濃度の上昇などにより、QOLの改善とともに腹水も再貯留しにくくなります。
CARTの基本システム(図1)はまず濾過膜にて原腹水から癌細胞、血球、細菌などを分離除去した後に濃縮膜で余分な水分、電解質を除去し、最終的に総量が10分の1前後のアルブミン、グロブリン濃縮液が完成します。