KM-CARTについて
CARTの歴史
1977年に旭メディカルから現在の形のCARTシステムが発売、1981年に保険認可されているものの癌性腹水治療法として一般に普及していないのが現状です。この原因として従来のCARTシステムの濾過方式上の欠点があげられます。腹水を最初に処理する濾過膜が血液透析システムと同様に内圧濾過方式(腹水をファイバーの内腔に押し込み、外腔に向かって濾過する方式)であることです。細胞成分の少ない肝性腹水では問題が少ないものの、癌細胞や白血球、フィブリンなどの細胞成分の多い癌性腹水では、狭いファイバー内腔に詰まるために2リットル前後で膜閉塞を生じて以後の腹水処理が不能となります。特に粘液成分の多い卵巣癌ではより早期に膜閉塞を生じるために適応外とされていました。また、腹水をローラーポンプで機械的に圧挫することに加えて、無理に濾過処理を続けようと濾過圧をあげると腹水に過度な圧ストレスがかかります。そのため白血球からインターロイキンなどの炎症物質生じ、さらに濃縮膜にて濃縮されて点滴静注されるために高熱を引き起こす原因となります。以上の重大な欠点により、CARTは癌性腹水には適応できないと認識され、一般に普及せずに現在に至っています。
KM(Keisuke Matsusaki)-CARTについて
そこで松﨑(当時防府消化器病センター所属)が上記の欠点を解消した改良型CART ( KM‐CART:2008年に特許申請、図2)を考案しました。
改良点は、(1)一次膜である濾過膜をファイバーの外腔から内腔に濾過する外圧濾過方式に変更、(2)専用のローラーポンプ装置が不要、(3)膜閉塞を解消する濾過膜洗浄機能を追加の3点です。
以上の改良により、装置、回路ともにきわめてシンプル、操作も簡便で、輸液ポンプと吸引装置があればどこの医療機関でも施行でき、簡便且つ短時間(9分/リットル)で多量(~15リットル)の癌性腹水も無駄にすることなく全量処理可能です(表1)。
在宅においても輸液ポンプと携帯用の吸引器を用いて、安全にCARTが施行可能でした。外圧濾過方式への変更に加えてローラーポンプの代わりに吸引装置を使用することで、腹水にかかる物理的ストレスを軽減でき、その結果、従来のCARTで必発であった高い発熱もほとんど認められません。また、従来のCARTで処理不能とされていた血性腹水や卵巣癌の粘液腹水に対しても濾過膜の洗浄を繰り返すことによって全量の処理が可能となり、対応できるようになりました。現在、15リットル前後までの腹水は全量抜水して一度に処理を行なっており、腹水が多いほうが1回の処理で多量の蛋白成分が回収できるとともに苦痛症状の改善効果も大きいためにより効果的です(写真1)。
写真2は、多量の腹水による強い腹部膨満感で食事もとれず車椅子で受診しましたが、8.6リットルの腹水を抜水後、CARTを施行し、その4日後には長らくあきらめていた趣味のゴルフが可能になった症例です。また、KM-CARTにより症状の消失と経口摂取の再開、全身状態の改善により化学療法が可能となり、1年以上腹水がたまってこない症例も経験しています。